低学年の子どもたちは、〔共通事項〕の示す内容の存在やその変化にうすうす気が付いていたり、自然と表現したりしていながらも、それらを言葉として表すすべをまだ十分に身に付けていません。さまざまな曲を歌や楽器で表現したり、鑑賞したりする中で、まずは〔共通事項〕が示す内容の存在に気付くこと。そして、どのような言葉を用いて存在やその変化を表したらよいかを知ることから始めるとよいでしょう。具体的には、音の速さには「速い」「遅い」、音の高さには「高い」「低い」、強弱には「強い」「弱い」(あるいは「大きい」「小さい」)等という言葉を用いて表す、ということです。
ただ、児童の中には、まだこれらの言葉の概念を混同している子もいるので(音高を大きい、小さいと表すなど)、教師がうまくこれらの言葉の交通整理をしながら、〔共通事項〕との出合いを、より分かりやすいものにできるとよいでしょう。
私が1年生で初めてこの〔共通事項〕に触れるのは『かたつむり』(文部省唱歌)を学習するときです。『かたつむり』の歌は実はかたつむりのパパの歌なんだよ、という奇想天外な呼び掛けから、個性の違うその家族(ママ、息子、娘)に「音楽を形づくる要素」を変化させた『かたつむり』の簡単な変奏曲を付け、原曲と比べて何が変化したのかを感じ取らせます。
この学習のねらいは、原曲と変奏曲の違いを感じて楽しんで歌い、何が違うのかをみんなで考え、ふさわしい「音楽を形づくる要素」の言葉でまとめていくことです。その言葉の組み合わせの違いによって、元の『かたつむり』の歌がママの歌になったり、息子の歌、娘の歌になったりする=曲想が変化することに気付かせます。
三つの変奏曲を紹介する際には、かたつむりの親子(!)のかわいらしいイラストを用意します。イラストといっても、普通のかたつむりのイラストに お父さんは「ひげ」をつけ、お母さんには太い「唇」と「まつげ」をつけ、かたつ・むり夫は目に涙をつけ、かたつ・むり子は縮小コピーして小さくすれば、 あっという間にでき上がります。 黒板に4枚のかたつむりの親子のイラストを貼り、原曲であるお父さんの歌と比べ、他の家族の歌は何が変化したのかを話し合います。予想される解答である「速さ」(速い・遅い)、「高さ」(高い・低い)、「明るさ」(明るい・暗い)という六つの音楽を形づくっている要素が書かれたカードを複数枚用意しておき、話し合う中でイラストの下に貼っていきます。
T:悲しい気持ちになっているかたつ・むり夫くんの歌は、お父さんの歌と比べて何が違うのかな?
S:ゆっくりになっているよ!
S:落ち込んでいるから音が暗いよ。
T:元気に走り回るかたつ・むり子ちゃんはどう?
S:すばしっこいからお父さんより速い!
S:体が小さいから音が高くなってる!
S:音が速く、高くなると、お父さんの歌が、かたつ・むり子ちゃんの歌に変わっちゃうんだね。
他の児童の考えを頼りに、自分の意見を構築し発表していく…音楽における協働的な学びの第一歩ですね。この授業では、「速さ」や「音の高さ」といった、音楽を形づくっている要素が存在すること、それらが組み合わさって、「曲想」が生まれることに気づくことに主眼を置き、それ以上のことは求めません。音楽の仕組みをみんなで真剣に考え、その面白さに気づく体験ができれば大成功です。 最後はまた4曲を楽しく歌って終わりにします。
<短い歌唱共通教材が豊かな学びに>
「かたつむり」は普通に歌うと1分程度で終わってしまう短い曲です。このような曲を授業で取り上げる場合は、その曲から何を学び取らせたいのかを明確にした上で、今回のような変奏曲風なバリエーションを用意して歌い比べる、というのも一つの方法です。今回の授業の場合、子ども達は知らず知らずのうちに、「かたつむり」を十数回歌っていることになります。
【かたつむり親子のプレゼンファイルがダウンロードできます!!】
本HPの教材室内の「授業用テンプレート」のページより、今回の「かたつむり」の授業で
使ったパワーポイントのスライドファイルがダウンロードできます。ぜひご参照ください。
【キングレコード教材音源集CD「まなびの森」にアレンジ版音源が収録】
本授業で小梨が編曲した、かたつむり親子の歌(パパ、ママ、ムリ夫、ムリ子)がプロのアレンジャーによって本格的なオーケストラ伴奏の曲に生まれ変わり、キングレコード株式会社の小学校音楽教材音源集『音楽まなびの森』に収録されています。このCDには、ママ、ムリ夫、ムリ子の歌声をプロの声優さんが担当し、ナレーターとパパの声を小梨自らが担当しております。もちろん「カラオケ版」も付いています。宜しければぜひご活用ください。
【CD音源を活用したかたつむり親子アニメがYoutubeで視聴できます】
上記CD「音楽まなびの森」に収録されている音源を利用したかたつむり親子のアニメーション動画がYoutubeで公開されています。ご参照ください。
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