<授業コンセプト>
小学校には、通常1〜2面の箏しかない。箏の体験を児童にさせる場合、その1〜2面を30名以上の児童に使わせるか、あるいは、他校からその時だけ箏を借りてきて児童に振り分け、2〜3人に1面を用意するようになる。前者は児童の待ち時間が多く発生し、遊んだり騒いだりする児童が出る場合があり、後者の場合、調弦にかなりの神経を使う。児童に本物の箏の響きの美しさを味わってもらうために、児童の待ち時間を極力減らし、ある程度、箏についての演奏知識をもった上で体験に臨めるよう、タブレットの楽器アプリの活用を思い立った。(2012.12初授業実施)
<主な学習活動>
①「春の海」を聴いて感じたことを交流し、聴き方の視点や感じ方を広げる。
②「春の海」について詳しく知り、違う観点で聴く。
③「箏」について知る。
④タブレットのアプリと比較しながら「箏」に触れ、豊かな響きを味わいながら、演奏する。
※今回の授業では、③④のみタブレット端末をしようするので、本記事ではその部分の説明にとどめる。①②の詳細についてはこちら→5年鑑賞_宮城道雄が描きたかった「春の海」
<使用アプリについて> アプリの詳細については、それぞれのアプリ名をクリック
・電子ブックリーダーアプリ「ブック」
・電子ブック作成アプリ「iBooks Author(アイブックス・オーサー)」
<学習の流れ>
第1,2時に児童は「春の海」(宮城道雄作曲)を鑑賞し、箏の音色に親しんでいる。次時は実際に箏を弾いてみよう、と投げかけ、前時を終了している。
【第3時】
①iPadアプリ「ブック」内の自作教材を使い、箏についての予備知識を学び、各部の名称や簡単な歴史、奏法などについて分かったことをワークシートにまとめる。
(タブレット端末活用…2人に1台のiPad)
(2人でペアをつくり、協力してワークシートを回答していく)
(教師が自作した箏の教科書…▷をクリックすると説明映像が再生される。)
(使用したワークシートの一部)
③「iKotoHD」を使って、「さくらさくら」の練習をする。
(箏の箱譜を使い、擬似的に演奏を体験する。)
【第4時】
④タブレットの疑似体験を生かし、実際の「箏」を演奏する。
(iPadに「さくらさくら」の箱譜を表示させ、箏の演奏を交互に体験する。)
⑤実際の箏を弾いて感じた、本物の楽器のもつよさについて、個人でまとめる。
<授業を終えて>
今回の授業の目的は、タブレットの楽器アプリをどのように授業に取り入れるか、である。実際に今回の授業で使用したアプリ「iKotoHD」は、琴の疑似体験をタブレット上で再現するという楽器アプリだが、かなり作り込まれており、楽器の音色、奏法など、かなり本格的に箏の疑似体験を楽しむことができる。しかし、だからといって、そのアプリでの疑似体験をもって、楽器を経験したことにしてよいかといえば、それは「否」だと私は考える。タブレットの楽器アプリでできることはあくまで「疑似」体験であり、本物の箏を演奏した時に筐体が発する独特な響きや、弦を押さえた指から感じる振動などを直接感じ取ることはできない。本物の楽器は、まさにそこに「良さ」があるのであり、子ども達には、ぜひその良さを体験させたいものである。
今回の授業では、まずタブレットで擬似的に箏の演奏を体験し、その体験を元に、本物の楽器に触れる、という流れをとった。本物の箏の短い体験時間の中で、効率よく曲が演奏できるようにしたり、箏アプリと実際の箏を比較することによって、本物の箏の魅力に気づいてもらうことに重点を置いた。多くの児童がそのことに気づき、本物の箏に対して大きな関心を寄せていた。タブレットの楽器アプリを効果的に活用することによって、本物の楽器の魅力を引き立たせるような使い方を、今後も検討していきたい。